アイデアの出し方
BOSSです。
本業とは別に週1回、デザイン学校で講師として教鞭を取らせていただいているのですが、生徒たちからこういった質問をよく受けます。
「先生、どうしたら良いアイデアって生まれるんですか?」
この質問、実はこれまで毎年のように何度も聞かれたことがあります。もちろん、アイデアが求められるのはクリエイティブな仕事に携わる人に限りません。 どんな仕事、あるいは日々の生活においても、より良くするための新しい視点や解決策、つまりアイデアは常に大切であり、必要とされるものだと思います。
また、仕事上において、アイデアを渇望している人や企業はたくさん存在しているのではないでしょうか。
冒頭の質問をうけた時、一番最初にお伝えするのが、ごく当たり前の自然の摂理です。
「息を吸わなければ、息を吐けないですよね」
アイデアも、まさにこれと同じことだと考えています。私たちの脳は、まるでスポンジのように、日々の様々な経験や情報、感動を吸い込んでいます。美しい景色を見た時の印象、心を揺さぶる音楽を聴いた時の感情的な動き、興味深い記事を読んだ時の知的な刺激、人との何気ない会話の中に潜む発見。そういったインプットの積み重ねこそが、アウトプットの源泉となるのです。
まるで、深い呼吸を繰り返すように、私たちは意識的、あるいは無意識的に、様々な情報を自分の中に取り込んでいます。街を歩けば、目に飛び込んでくる色彩、形、素材感。耳を澄ませば、行き交う人々の声、環境音、音楽。指先で触れるものの質感、鼻をくすぐる香り、そして舌で味わう味。五感を通して、世界は常に私たちに語りかけています。
また、書籍やウェブ記事から得られる知識、映画やアート作品から受け取る刺激、旅先での異文化との出会い、そして何よりも、人との交流を通して生まれる共感や気づき。これらもまた、私たちの内なる貯水池を豊かにする大切なインプットなのです。
そして、いざアウトプットという時。例えば、クライアントの課題に対するアイデアを考える時、ウェブサイトのコンセプトを練る時、あるいはデザインレイアウトを組む時。それまで自分の中に蓄積されてきた様々なインプットが、まるでパズルのピースのように、ふとした瞬間に結びつき、新たな視点や発想となって現れてくるのです。
過去に見た映画のワンシーンでハッとした予期せぬ色使い、読んだ記事の中にあった本質を突く重要なフレーズ、旅先で出会った人々の想像もしなかった価値観。そういった記憶の断片たちが、今の課題に対する斬新なアイデアの種となるかもしれません。
もちろん、ただ闇雲にインプットすれば良いというわけではありません。大切なのは、感受性のアンテナを高く張り、心と頭でしっかりと受け止めること。そして、それらを自分自身の経験や感情と結びつけ、血肉化していくプロセスなのです。
インプットは、アウトプットのための単なる材料ではありません。それは、私たち自身の感性を磨き、思考の幅を広げ、創造性を刺激する、まさに呼吸のような、生命維持活動そのものなのかもしれません。
そして、それは仕事におけるアウトプットの質を高めるだけでなく、日々の何気ない瞬間の美しさに気づかせてくれたり、他者の感情に深く寄り添う感受性を育んだり、知的好奇心を満たす喜びを与えてくれたりと、私たち自身の人生そのものを豊かにしてくれる大切な要因でもあるのだと思います。
インプットは、独創的なアイデアが生まれるための大切なきっかけ。そうして得られたアイデアの断片を組み合わせたり、時には全く別の何かと置き換えてみたりすることで、素晴らしいアイデアへと昇華させることができます。もちろん、そういったアイデアを生み出すためのテクニックを身につけることも、アイデアの精度を高める上で重要です。しかし、何よりもまず、豊かなインプットがあってこそ、それらのテクニックは活きてくる。やはり、日々のインプットこそが、アイデアの源泉となる大切な第一歩なのです。
好きなことをとことん追求するのも良いでしょう。これまで経験したことのない世界に足を踏み入れてみるのも刺激的かもしれません。大切なのは、「やらなければならないからやる」のではなく、もちろん「やらされる」ものでもないということ。自分が心惹かれるままに行動することが、結果として自然なインプットに繋がっていくのだと思います。
だからこそ、私たちは日々の生活の中で、積極的に美しいものに触れ、新しい知識を吸収し、様々な経験を重ねていく必要があるのだと思います。インプットという豊かな土壌があってこそ、初めて独創的なアイデアという美しい花を咲かせることができるのだと思います。
きっと、良いアイデアに悩むのは、私たちだけではないはずです。しかし、インプットを大切にしていれば、ふとした瞬間に、自分らしいアウトプットに繋がる発見があるはずです。
結局、良いアイデアの種は、特別でもない普通の日常の、何気ないインプットの中にそっと隠れているのかもしれませんね。