スタッフからの質問 -その1-

先日、スタッフから質問がありました。
「デザイナーとしての心得は何でしょうか?」と。
具体的には「どういうマインドで仕事に取り組んでいるか」、「スタッフにどういったマインドで取り組んで欲しいか」と行った質問。
入社2年目のスタッフからの何気ない質問でしたが、なかなか奥深い質問。

質問の答えを出す前に、いい機会なので少し掘り下げて自分の考えをまとめてみました。
 
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私個人の「デザイナーとしての目的」は、
「デザインの力で、クライアントの課題を解決すること」と考えています。
その連続がいわゆる一種の社会貢献にもつながると考えています。
したがって、その目的を達成するために必要なことすべてが「心得」のような気がします。

そう言ってしまうとザックリしすぎてしまうので、まず大きな枠で挙げるとするならば、表現の幅を広げるために「たくさんの作品を観る・収集する」ことや、どんな案件でもクライアントの課題を解決するアイデアが生み出せるように「企画力や発想力を養う」ことといった、「常に自己成長」は大切な心得のひとつではないでしょうか。
 
そもそもデザイナーとして表現の幅は職能的に必要なことですし、もっと根幹的なこととして、クライアントの課題を解決するためにデザインは存在しているといっても過言ではないので、課題解決のアプローチ手法の幅や深さも必要な職能でしょう。
「企画力や発想力を養う」を具体的に挙げると、やはり「企画」を反復練習(反復実践)すること、考えること・思考力の鍛錬だと思います。むしろ反復して行う以外にないような気がします。
 
どの世界でもプロフェッショナルは日頃(もしくは下積み時)の訓練・研鑽の反復の賜物だと思います。楽してプロ(一流)になる人はなかなか少ないと思いますし、もしそういう人がいたとしてもそれは一握りではないでしょうか。
また、プロフェッショナルでも、常に第一線で活躍し続けるためには、その反復を継続的に続けなければ、競合の多い今の時代ではすぐに淘汰されてしまうのではないでしょうか。

他に漏れずデザイナーという職業も「極める」というか「ゴール」というか、「デザイナーとして完成(完璧)」というものがない気がしますし、社会が成長し続ける限りデザイナーも成長し続けられる(続けなければならない)職業のような気がします。
その永遠に続く成長過程の中でも常に仕事としてデザインを行うわけですが、デザインを依頼されたその時点での自分の最高の力を発揮して取り組むことの連続、つまり上を見ればキリがないですが、「現時点での一所懸命な気持ちで取り組むこと」も大切な心得だと思います。

クライアントの課題を解決するために行うデザインが、毎回毎回容易な内容であるわけありませんし、クライアントの期待に応える気持ちがあるならば、少なからずプレッシャーも感じることでしょう。成長し続ける(必要がある)職業のデザイナー、そいう意味ではデザイナーとして必要な能力や技術を養うために行う「難しい仕事」や「大変な仕事」も乗り越えるべき仕事であり、それらを乗り越えてこそさらにデザイナーとしての成長に繋がって「本物のプロフェッショナル」に近づくのではないかと考えます。

したがって、プレッシャーに負けたり、相手の期待に応えられない、難しい仕事や大変な仕事を途中で投げ出したり、ましてや放置、放棄する人、いまの状況や環境を自分以外のもののせいにするような人は、デザイナーとして(社会人としても?)不適格でしょうし、プロのデザイナーなんて夢のまた夢でしょう。
 
 

デザイナーを目指す若い方やデザイン経験の浅い方からよく耳にする「おしゃれなデザインがしたい」とか、「たくさんの人に受け入れられるデザインがしたい」などという、デザインの上辺しか見えていない言葉は、商業デザインの本質からズレていますし、それはもう「自己満」であったり、ある意味「アート」の世界ですよね。
クライアントの課題を解決する目的のために考えたデザインの方向性や、仕上げた表現が「おしゃれ」なだけであって、「おしゃれなデザインにすること」が目的ではないですよね。そもそもその「おしゃれ」と思う価値観も自分の価値観であって、制作者は実は「おしゃれ」と思って制作していないかもしれません。
そういった本質的部分がきちんと理解できていないデザイナーは、「見た目だけで中身のないデザイン」しか生み出せていないことほかならないのではないでしょうか。
 

デザイナーという職業は資格も免許も要らないので、自分がデザイナーと名乗ればある意味誰でもデザイナーとし活動できますし、今はSNSが発達していますので、「自分はデザイナーだ」というソレっぽい情報をソレっぽく発信することも容易にできます。今の時代、グラフィック系・WEB系・動画系などなど「デザイナー・クリエイター」はごまんといますが、玉も石もごちゃまぜの自称プロがはびこっている状態というのが現実でしょう。
おしゃれなデザインをつくることや、かっこいいデザインをつくること、目立つデザインをつくることなどなど、表面的表層的にどうこうではなく、デザインの本質的部分を理解し、それを捉えたデザイン、機能させるデザインができるかどうかが本物と偽物の違いかと私は思います。
 
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だいぶ話が逸れてしまいましたが、本題の「どういうマインドで仕事に取り組んでいるか」「スタッフにどういったマインドで取り組んで欲しいか」という質問に戻りますが、人それぞれ自分の仕事に対する価値観は様々だと思いますので、あくまで私個人の考えで述べると、
●この職に就いた志を忘れない
●ゆっくりでも常に自己成長を
●クライアントの期待のその一歩上を目指す
●仕事は楽しんで取り組むが、「楽しい」と「楽(ラク)」は別物
●苦難に負けず、なとしても乗り越えるという気持ちを持つ
●妥協した分だけ相手の気持ちが離れることを知る
●信頼を得るのは時間がかかるが、失うのは一瞬
●失敗したことより、その後の行動(フォロー)が大切
 
意外とたくさんありましたね(笑
人それぞれ価値観は違いますので、スタッフに対して私の考えすべてを見習って欲しいとは言いませんが、ひとつの組織・チームとして活動しているので、上記の共感できることだけでも吸収し、それを経て自分なりの「デザイナーの心得」を構築してもらえると、デザイナーとしても社会人としてもさらによりよい成長があるのではないかと思います。
 
私は、デザイナーという仕事は素晴らしい職業だと思っていますし、そのデザイナーという職業に誇りを持って就いています。
良くも悪くも「デザイン」「クリエイティブ」という言葉が世の中に浸透していっています。そんな時代だからこそデザインのちゃんとした価値を理解し、その価値をクライアントへ提供したいと今まで以上に強く思いますし、それと同時にスタッフがクライアントから頼りにされる、愛される「本物のプロのデザイナー」へ成長することを心から願っています。
 
 
若手スタッフからの何気ない質問というきっかけでしたが、たまには初心にかえることの大切さに改めて気付かされた出来事でした。
また、久々にまじめなテーマについて考えると、脳みその疲労感が半端ないことを再認識しました(笑

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